PayPalが購買データを用いて広告業を強化、その背景と意図とは
PayPalが広告事業「PayPal Ads」において、加盟店をまたいだ購買データ(cross-merchant purchase data)を活用する「Transaction Graph Insights & Measurement」を発表しました。*
PayPalの保有する、430M超の消費者アカウントと数千万規模の加盟店にまたがるデータを活用して、広告業に本格参入することになります。
今回の提供内容は、実務的には次の3点に整理できます。
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InsightsPayPal経由の購買を集計し、加盟店をまたいだ形で、カテゴリの伸び/買い回りや購買頻度の変化などを可視化して提供します。
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Measurement広告接触と購買の関係を結び、売上への寄与を測ります。コンバージョンに繋がったか(アトリビューション)に加えて、「広告がなかった場合との差(純増)も扱う」と述べており、より詳細にROIを測定することが可能になります。
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Partnership ProgramPayPal単独の測定に加えて、AppsFlyer等の大手アプリ計測事業者(外部パートナー)との連携も進めます。
提供地域はまず米国から開始され、将来的にはイギリスやドイツへの展開も視野に入っています。
PayPalが広告業に参入する背景は、大きく2つあると思います。
1つは、PayPalの位置するオンライン決済領域の競争環境が激化していること。もう1つは、コマースと広告業の融合に追い風が吹いていることです。
PayPalはもともと、ユーザーサイドにウォレット、加盟店サイドにはオンライン決済を提供することで、インターネット上の決済を独占的に支配してきました。
しかし、直近は、加盟店サイドにおいてはStripeなどの競合の登場、ユーザーサイドにおいてはGoogleやAppleなどの巨大コンシューマー企業の参入によって、苦戦を強いられています。
以下は、PayPalのアクティブユーザー数の推移です。2022年以降、横ばいが続いていることが分かります。
OBERLOより
今後コマース事業者(加盟店)にとって、PayPal決済を導入していれば、広告が購入に繋がったかどうか、そのROIまで分かるということであれば、Stripeなどの加盟店サイドの競合に対して差別化要素になります。
また、コマースと広告の融合には追い風が吹いています。
ここ数年のトレンドとして、世界的な個人データ保護の流れを受けて、広告のターゲティングや計測は難しくなっています。具体的には、「サードパーティ由来の識別・計測」が、ブラウザとOSレベルで効きにくくなっています。
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Web(Safari):SafariのWebKitはITPで第三者Cookieを原則ブロックし、クロスサイト追跡の前提を崩しています。
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App(iOS):iOSではApp Tracking Transparency(ATT)により、ユーザーが許可しない限り、広告ID(IDFA)は実質使えません。その結果、モバイル広告で昔から多用されてきた「IDFAを鍵にした広告とアプリ内データの紐付けによるターゲティング/計測」は再現性が落ちています。
結果、広告が実際のコンバージョンに繋がっているかどうかの計測データの紐付けは曖昧になっており、また、コンバージョンデータに基づくターゲティングも難しくなっています。
しかし、PayPalが広告事業を展開した場合、ユーザーのインプレッションやクリックといった広告データと、ユーザーの実際の決済(コンバージョン)のデータは(ユーザーがPayPalにログインして決済すれば)確実に紐付けられます。
コマース事業者が広告事業を展開した場合、通常の広告事業者に対して優位性を持ちやすい環境が広がっているということです。
実際、コマース大手Amazonの広告サービス売上は、2024年に約562億ドルと5兆円を超えており、2025年Q3も約177億ドル(前年同期比+24%)と大きな成長を見せています。
PayPalは、2020年にクーポンやリワードを提供する「Honey」を約40億ドルで買収して「買う前」にユーザーが触れる面を抑えています。2021年にはPinterest買収検討が報じられたこともありました。決済だけでなく、広告まで一貫して提供する構想自体は以前から存在したということです。
2020年前後の大型投資とその後の伸び悩み、CEOの交代を経て、直近PayPalは大きな投資は控え、質実剛健な経営を心がけていますが、激化する一方のオンライン決済の世界において、広告まで垂直統合することは生き残りに欠かせないと考えているのかもしれません。
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万代 惇史(まんだい あつし)
マネックスグループ 執行役員(新規事業)/ マネックスベンチャーズ代表
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※ 本記事は筆者の個人的なメモであり、所属組織とは一切関係ありません。また、一部AIを用いて執筆しています。可能な限りファクトチェックをしていますが、気になる部分については、ぜひご自身でもご確認ください。
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