AI時代のUI/UX革命(1):TikTokはユーザーを「選択」から解放した
技術やデバイスとともに変化するUI/UX
UI(ユーザー・インターフェース)やUX(ユーザー・エクスペリエンス)は、常に技術やデバイスとともに変化してきました。
PC時代には、画面上になるべくたくさんの情報やリンクを分かりやすく綺麗に並べて、ユーザーが迷いなく必要な情報を見つけられるようにすることが最適なUIであり、UXでした。

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ユーザーは、広いディスプレイに映し出された多くの情報やリンクの中から、自分が使いたいもの・興味関心があるものを見つけて、クリックすれば良かったからです。
しかし、スマホの普及がPCを追い抜いて、最も意識すべきデバイスがPCからスマホに変わると、当然ながら最適なUI/UXも変化しました。スマホのディスプレイは、PCと比べて非常に狭いため、画面上にたくさんの情報を並べると、あまりに見にくかったからです。
結果、スマホ時代には「タイムラインをスクロールして情報を探す」というUI/UXが隆盛を極めました。Instagram、Twitter、メルカリなど、多くのヒットアプリがタイムライン型のデザインを採用しています。
僕がマネックス証券において立ち上げを担当したスマホ証券アプリ「ferci(フェルシー)」でも、このタイムライン型のUI/UXを採用しました。

スマホ証券アプリ「ferci」
こうして、「ディスプレイ上でタイムラインをスクロールして情報を探してもらう+コア機能(出品や投稿)をタブや右下にフロートで固定する」が正解のUI/UXとして定まったかに思えたときに、新たな変化が生じてきました。
その新たな変化が「AIやアルゴリズム」です。
AIやアルゴリズムによるUI/UXの変化
インターネットサービスのインフラ基盤がクラウドに移行して久しくなり、クラウドインフラに膨大な投資が行われた結果、インフラのコストがどんどん低下して、あらゆる情報をデータとして保存して、AIやアルゴリズムの学習に使うことができるようになりました。そうした変化は当然ながら、AIやアルゴリズムの精度や性能を飛躍的に成長させました。
その変化に乗って、急速に成長したのが「TikTok」です。
「タイムラインをスクロールして興味のある情報を探してもらう」というステップを省略して、いきなりディスプレイいっぱいに動画を表示するというUI/UXは、「ユーザーが興味を持つであろう情報を高い精度で推測して表示できる」という圧倒的な自信がなければ成り立ちません。

TikTokスクリーンショット(画像出典:TechCrunchより)
InstagramやSnapchatのストーリーズのように全画面にコンテンツを展開するUI/UX自体は、TikTok以前からありましたが、これらはフォローしたユーザーの近況(すでに一定の興味・関心が示されたコンテンツ)を表示しており、膨大な動画からレコメンドしてくるTikTokとは、やや質が異なっています。
強いていえば、似たような全画面にコンテンツを表示するミニマルなデザインで先にヒットしていたアプリといえば、マッチングアプリの「Tinder」があります。TikTokは、これをマッチングアプリほどユーザーの熱が高くないコンテンツ動画アプリでも成り立たせたものだといえるでしょう。
TikTokのUI/UX革命の本質は、ユーザーを「選択」から解放したこと
さて、タイムライン型のInstagramやTwitterなどのアプリとTikTokのUI/UXの違いを「全画面にコンテンツを表示したかどうか」だと理解していると、本質を見誤ることになります。
上でも書いた通り、TikTokのUI/UX革命の本質は、ユーザーを「選択」から解放したことにあるからです。
レストランで考えてみてください。
PC時代からスマホ時代の(タイムライン型への)UI/UXの変化というのは、言うなれば、メニュー表のサイズ変化に伴う、メニュー表のデザインの変化です。メニューを提示して、ユーザーに「選択」してもらうという点には変化がなかったわけです。
しかし、TikTokのやっていることは、メニュー表を見せて注文を取ることなく、いきなりスタッフが料理をテーブルに持ってくるようなものです。この「選択」からの解放というのが、AIやアルゴリズム時代のUI/UX革命のひとつなのです。
そして、TikTokの爆発的な普及が示唆しているのは、TikTokのように次々とアルゴリズムが適切なものを提案してくれるのであれば、もう自分でメニューから選んでいた時代には人は戻らないということです。
TikTokがパンドラの箱を開けた結果、YouTubeもTikTokを完コピしたショート動画というフォーマットで、InstagramもTikTokを完コピした「リール動画」というフォーマットで、TikTokを猛追しています。
こうした「ユーザーを選択から解放して、ドンピシャの食事をいきなりテーブルに持ってくる」ような新しいUI/UXは、AI・アルゴリズム時代に最適化されたUI/UXとして、急速に動画アプリ以外にも広がっていくと思います。
Atsushi Mandai
Twitter:@atsushi_mandai
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